実話。こんなことがありました。
先日、とある企業様のWEBサイトリニューアルを進行する過程で、関係者が集まり他社の事例を見ながら具体的な内容を検討をする、という機会がありました。なかなか議論の焦点が定まらず、どこを結論とするかそろそろこちらで手綱を引こうとしていたところ、その日からプロジェクトに参加された方のお一人がおっしゃられました。
「途中から参加しているから申し訳ない質問なんですが、そもそもWEBサイトリニューアルってなんでやることになったんでしょうか、WEBサイトで集客するんですか?」
いろいろな事例を見ながらあーでもないこうでもないと議論をされていて、私はもう少し様子を見てあとで交通整理をしようとおもっていたところのこの質問。心の中で「ナイスです!」と親指を立てておりました。
WEBサイト制作というのは、サイトの構造やコピーなど主要な部分、ビジュアル、色使い、CSSやJavaScriptを使った仕掛け要素、システム(CMS)の部分など、目に見えてわかりやすいものから裏側の要素まで、サイトを構成する範囲が非常に多くあります。
事例を見ていると、このサイトかっこいいね、とか好きだねとか、あ〜この会社は××だから〜などWEBサイトとは直接関係のないお話まで、様々な視点での話が飛び交っていくことが多々あります。
このときは、途中参加の方の一言で改めて、WEBサイトの目的やどういう価値があるサイトになるべきなのかの議論に立ち返ることができ、無事に着地点を整理することができました。
事例を見ての検討段階、モックアップ(テスト版)をつくる、そして実施制作で詳細を詰めていくときにも、そもそもなんのために作るのか?どういう成果が必要なのか?ということは絶対に忘れてはいけないものだと、改めて強く思います。
WEBサイトをつくる目的とは
工務店・住宅会社の場合、WEBサイトに持たせる役割は、大きく3つに分けられるのかなと考えています。それは、
集客をとること、
会社や事業について具体的に知ってもらうこと、
ブランドや世界観を表現すること。
これらが混合になるケースもありますが、その場合は同じサイトドメイン内でもデザインや仕組みの差異、導線設計の精緻化が必要になります。
イメージがしやすいように「建築計画」にも例えながら話していきたいと思います。
集客をとる≒店舗をつくることに似ている
多くの目的となるのがこの「集客」。お問い合わせ・資料請求・来場予約・見積もり依頼、出口は様々なものとなりますが、コンバージョンという形で結果が最も計測しやすいリニューアル目的となります。
この目的を達成するためには以下のような前提をチェックしてほしいと思います。
・ただ見た目を綺麗にするだけでは大幅な集客アップは見込めない
・サイトをリニューアルしただけでは「サイト流入」はほとんど上がらない(SEOリニューアルの場合は別)
・サイト流入、コンテンツ設計、コンバージョンオファーまでの流れがちゃんと設計できなければいけない
・上記を考えると、WEB上だけではなくリアル施策も連動するイメージを持つ必要がある
このようなことを前提条件として気をつけることで、集客を目的としたリニューアルの考え方はずいぶん変わってくると思います。
「店舗づくり」に例えると
集客から売り上げを上げる直接の例をとしては小さな商店をイメージしてみてください。
みなさんが小さな雑貨屋さんを自分でつくるとします。どんなことを考えますか?立地、広さ、店舗のレイアウト、品揃えの内容、価格設定。ざっとこれくらいは誰でも考えるところではないでしょうか。
WEB構築においても同様の発想を持ち込むことが可能です。立地を考える理由は、人通りが多い大通りやモールがいいのか?知る人ぞ知るローカルな場所に店を構えるのか。
人通りが多いとたくさんの人が来てくれるかもしれませんが、競合店も多く家賃が高くなります。(WEBサイト流入への広告コストがあがる)
知る人ぞ知る場所に店を構える(広告をあまりしない)のであれば、その場所に店があること、またその店が魅力的なものであることをなんらかの形で知ってもらう必要があります。(ウェブ以外で認知をとって誌名検索で流入をとる)
広さ・店舗のレイアウトは中身(更新頻度やコンテンツ数)に見合った規模にしておかないと、システムだけが残って中身がスカスカになってしまい、お客さんは楽しく店を回遊することができません。
品揃えや価格設定は、コンバージョンへのハードルをコントロールするものです。最終的にどのような行動に移れるのか、サービスが受けられるのかが明確でないとお客さんは不信がつのったり、迷いが生まれてお店から出ていってしまいます。レジがどこにあるのかわからないと諦めてしまう。店員さんがなかなか案内してくれないと、自分がどうしたらいいのかわからない。そんなお店で売り上げが上がるとは思えません。
このように考えて、どうやってサイトに流入してもらう?(立地)、どんな風に商品やサービスを楽しんで知ってもらう?あるいは必要な商品やサービスにたどり着いてもらう?(広さやレイアウト)、なにをどのように問い合わせしてつながりをつくる?(品揃えの選択肢や価格設定)を議論する必要があるのが、集客を目的としたWEBサイトリニューアルになります。
会社の事業や組織について知ってもらう、確認してもらう。≒オフィスビルをつくることに似ている
続いて、コーポレートサイト、事業サイトとしてのリニューアル。どんな会社なのか、どんな事業をしているのか、購買に直結しない情報も含めて企業の信用であったり、所在を明確にするためにつくるということが目的です。
コーポレートサイトを整える目的としては「金融機関が見ていい印象を与えられる」「株主が見る」「購買をする人が信用の確認をしにくる」「顧客の親族や意思決定権者が見る」など、まさしくちゃんとした会社である、ということがアナウンスできるものでなければなりません。
また近年よく目的のひとつとして上がるのが、採用活動に紐づけた目的です。求職者の方が、コーポレートサイトをみて、どのような会社か、安心して働ける会社か、ということ念入りに見に来る場所のひとつとなっています。
・具体性のある情報をきちんと掲載できることが信用につながる
・一定の更新性をどのように保つのかの検討が必要(ニュースリリースは重要)
・訪問者がストレスなく知りたい情報にたどり着けるわかりやすさ
・現場や商品、サービスと解離しすぎないトーン&マナー
次に出てくるブランドや世界観の表現と混同してしまうことがありますが、クリエイティブの度合いにはコントロールが必要で、知りたい情報にきちんと導いていける、ガイド力というのはコーポレートサイトに必要な要素のひとつです。
あまりにとっぴなデザイン性を優先して、ナビゲーションがわかりにくいサイトは信用を得られるサイトとは言い難いと考えています。
「オフィスビル」に例えると
たくさんの部署を抱え、各フロアに様々な機能が分散されているオフィスビルを想像してみます。
受付で用件を伝えて、該当するフロアに案内される、またはエレベーターホールなどに行き先がわかる案内掲示がされている。
まずは訪れた人が何を見たいのか?に対してストレスなく応える構造というのが求められます。
オフィス全体のしつらえや雰囲気によって会社のイメージを伝えることもできるはずです。
そして、専門部署・フロアごとの機能が明確になっていて、迷うことなく用件を済ませて帰ることができる。それが理想のオフィスビルではないでしょうか。
コーポレートサイトも同じく、一定のブランドカラーによってデザイン性を保ちつつも、大切なことはWEBサイトに訪れたひとに「必要な情報を得てもらう」ということが最優先で設計されている必要があります。
販売部に用がある人に、人事部のニュースを玄関先でいきたり伝えられてもびっくりするだけ。まずは販売部にスムーズに案内し、他に興味があれば答えられるようにする。というような、スムーズなナビゲーションが第一であるべきと考えることができます。
自社のことをきちんと知りたい人のために、きちんと必要な情報を掲載したページをつくり、そこへのナビゲーションをわかりやすくする。近年は次の項でも説明する「ブランド・世界観」を重視したコーポレートサイトも増えていきていますが、そういったミックスサイトをつくるとしてもメニューのわかりやすさやナビゲーションのレイアウトはひとつ立ち止まって、しっかり整備することが大切です。
ブランドや世界観を表現する。≒ギャラリーをつくることに似ている
マーケティングデパートメントにも相談をいただく「ブランド・ブランディング」。近年のマーケティングにおける重要な要素として、ブランドづくりというのは注目度が高いのではないでしょうか。
そしてそのブランドづくりの一環としてWEBサイトがリニューアルされるということは多々あることだと思います。その際に、新しく作った世界観を前衛的なデザインで表現することに没頭して、商品サイト・コーポレートサイトとの役割がごちゃごちゃになり、結果的に目に見える成果が上がらないというケースがあります。
そもそもWEBというのは本来情緒的なことがらよりも、事実情報を伝達することに向いているものです。近年は回線の高速化やデータ圧縮の技術が進歩し、動画などリッチコンテンツを配信しやすくはなりました。
ただそういった先端技術やみてくれのデザイン性にとらわれて商品サイトやコーポレートサイトなど事実情報が重要なウェブサイトを、「ブランド化」して伝わるべきものが伝わらないものならないように注意しなければいけません。
・問い合わせ・資料請求にはつながりにくい構造になりがち
・サブドメインや下層ページなど特設サイトとしての運用ができないか検討する
・閲覧者に対する次の行動への施策を検討しておく(リマけや商品サイトへの誘導)
・デザイン性一辺倒では目に見える成果に直結しないことを理解しておく
「ギャラリー」に例えると
ブランドサイトをつくることはギャラリーをつくることに似ています。ギャラリーというのは、主に展示をメインの目的とし、新しい世界観であったり、新しい技術や価値観に出会ってもらう場所としてつくられます。
新商品や技術、アートなど新しいものに触れ、話を聞き、消費者自身の知識をアップさせることによって、消費活動のきっかけにする。
その企業やブランドの歴史や進歩を展示することで、コアなファンの期待に応えて企業の信頼度を高めていく。
そういった目的をもってブランドサイトをつくることは、超長期的な視点でいえば有益になるだろうと言えますが、やはりそこにどのように流入してもらうのかであったり、流入してもらったユーザーをどのようにコンバージョンという形で完結させるかというのは、少し難しいチャレンジになるかもしれません。
そのため、ブランドサイトを作る際はそれをメインとせずに、サテライトサイトとしてサブドメインや下層ページで制作を進めて、独自の広告戦略であったり、商品やコーポレートサイトの閲覧ユーザーへのリターゲティングであったり、マーケティング活動のどのフェーズに貢献させるのかを具体的に考えられているとベストです。
目的に立ち返りながら、舵取りを。
以上がWEBサイトをリニューアルするときに当初検討されているはずである、「そもそもの目的」になります。大まかに3つに分けてみましたが、この目的に何度も立ち返りながら、カレーライスをつくっていたつもりが気がついたら肉じゃがになっていた、ようなことが起こらないようにしたいところです。
フェーズが進むごとに、技術面デザイン面で様々な検討がなされると思いますが、ことあるごとに目的に立ち返り、その前提条件をきちんと押さえたWEBサイトになっているか、チェックしながら進めてみてください。